外国人採用

インドネシア人材が定着する職場づくり。礼拝・食事・ラマダンへの配慮と実践例

ノートパソコンを見ながら話す2人の女性

特定技能で働くインドネシア人は10万人を超え、地方の工場や建設現場、介護施設でも、インドネシア出身の人材が欠かせない存在になりつつあります。

一方で、「せっかく来てくれたのに、1年もたたずに辞めてしまった」「礼拝や食事のことで、日本人社員との間にすれ違いが起きた」という声も聞かれます。2027年から始まる育成就労制度では、一定の条件のもとで本人の希望による転籍も認められるようになり、「選ばれる職場」でなければ人材が定着しない時代になっていきます。

この記事では、インドネシア人材に長く働いてもらうために知っておきたいイスラム教の基本と、礼拝・食事・ラマダンへの具体的な配慮、公的な調査からわかる外国人の困りごと、企業の実践例を整理します。

この記事でわかること
  • インドネシアの基本データと、イスラム教の基礎知識
  • 公的な調査からわかる、日本で働く外国人の困りごと
  • 礼拝・食事・ラマダン・レバランへの具体的な配慮
  • 企業が実際に取り組んでいる配慮の例
  • 受け入れ前に社内で決めておきたいルール

インドネシアと、インドネシア人材の基本

まずは、インドネシアという国の基本を押さえておきましょう。外務省の資料によると、インドネシアの人口は約2.79億人(2023年)で、約1,300の民族からなる多民族国家です。公用語はインドネシア語です。

2.79億人
インドネシアの人口
(2023年)
87%
イスラム教徒の割合
(2023年)
10.7万人
特定技能1号で働く
インドネシア人(2026年6月末)

宗教の構成は、イスラム教が87%、キリスト教が10.4%、ヒンズー教が1.7%、仏教が0.7%です(2023年、インドネシア宗教省の統計)。つまり、受け入れるインドネシア人材の多くはイスラム教徒(ムスリム)だと考えておく必要があります。

ただし、同じムスリムでも、戒律をどこまで厳格に守るかは人によって差があります。「インドネシア人だからこうだ」と決めつけず、一人ひとりに「何を大切にしているか」を聞くことが、配慮の出発点です。キリスト教徒やヒンズー教徒の人もいることを忘れないようにしましょう。

調査からわかる、外国人が職場で困っていること

出入国在留管理庁が2025年10〜11月に行った「在留外国人に対する基礎調査」(令和7年度、有効回答8,874件)では、日本で暮らす外国人の困りごとが明らかになっています。

質問上位の回答
仕事で困っていること給料が低い 29.1%/休みが取りにくい 7.4%/労働時間が長い 6.6%
日本での生活に満足していない理由物価が高い 32.7%/給料が安い 21.8%/外国人に対する差別がある 15.3%
差別を受けた場面家を探すとき 19.4%/仕事をしているとき 17.5%/仕事を探すとき 13.2%
孤独を感じる状況一人暮らしの生活をしているとき 38.6%(最多)

「給料が低い」は、この調査が始まった令和2年度から一貫して最も多い困りごとです。また、差別を受けた相手として最も多かったのは「職場関係者」(35.9%)でした。

ここから分かるのは、定着のためには「給料と昇給の見通し」「職場での人間関係」「仕事以外の孤独」の3つに目を向ける必要があるということです。宗教への配慮は、このうち「職場での人間関係」と深く関わっています。礼拝や食事のことを周りが知らないと、悪気のない一言が「差別された」と受け取られることもあるからです。

礼拝への配慮

礼拝の基本

ムスリムは、1日5回、決まった時間帯に礼拝を行います。夜明け前、昼、午後、日没後、夜の5回で、時刻は季節や地域によって変わります。勤務時間と重なるのは、主に昼と午後の礼拝です。1回の礼拝は10分前後で、礼拝の前には手足や顔を水で清めます。

また、金曜日の昼はモスク(礼拝所)に集まって行う集団礼拝の日とされています。

職場でできる配慮

  • 礼拝の場所を用意する——専用の部屋がなくても、使っていない会議室や更衣室の一角など、静かで清潔な場所があれば十分。床に敷く礼拝用のマットを置けるスペースがあるとよい
  • 礼拝のタイミングを相談して決める——昼休みや休憩時間に合わせられるか、作業の区切りで数分抜けてよいかを、本人と職場で話し合ってルールにする
  • 手足を洗える場所を確認する——手洗い場で足を洗うことに戸惑う日本人社員もいるため、使ってよい場所を決めておく
  • 金曜日の集団礼拝について話し合う——近くにモスクがあるか、参加を希望するかを確認し、昼休みの延長やシフトの調整で対応できるか検討する
「特別扱い」ではなく「ルール化」する

礼拝のための中抜けを、その場ごとの判断で認めていると、周りの社員から「なぜあの人だけ」という不満が出ることがあります。喫煙者の休憩と同じように、「いつ、どこで、どのくらい」を職場のルールとして決め、日本人社員にも理由とあわせて説明しておくことで、不公平感を防げます。

食事への配慮(ハラール)

イスラム教では、豚肉とアルコールを口にすることが禁じられています。また、豚由来の成分(ラード、ゼラチン、エキスなど)が使われた食品や、イスラム教の作法に従って処理されていない肉を避ける人もいます。こうした教えに沿った食品を「ハラール」と呼びます。

職場でできる配慮

  • 食材を表示する——社員食堂や支給するお弁当に、豚肉やアルコールを使っているかどうかを表示する。イラストや英語を添えると分かりやすい
  • 調味料にも気を配る——みりんや料理酒、豚由来のエキスが入った調味料は見落としやすい
  • 差し入れやお菓子にも注意する——ゼラチンを使ったお菓子や洋酒入りのお菓子などは、配る前に原材料を確認する
  • 食事の場を一緒にする工夫——歓迎会などでは、ハラールに配慮した料理を出せるお店を選ぶか、持ち寄りの形にする
  • 買い物できる場所を伝える——近くのハラール食材店や、ハラール認証の商品を扱うお店を入社時に紹介する

どこまで厳格に守るかは人によって違います。「これは食べられる?」と気軽に聞ける関係をつくることが、何よりの配慮になります。

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ラマダン(断食月)とレバランへの配慮

ラマダンとは

ラマダンは、イスラム暦の9月にあたる約1か月間で、この期間、ムスリムは夜明けから日没まで、食べ物だけでなく水も口にしません。イスラム暦は毎年11日ほどずれるため、ラマダンの時期も毎年変わります。

ラマダン中の配慮

  • 体調と安全に気を配る——日中は水も飲まないため、暑い時期や体を使う仕事では、脱水や集中力の低下に注意が必要。高所作業や重機の操作など、危険を伴う作業の割り振りを見直す
  • 休憩の取り方を柔軟にする——昼休みに食事をとらない代わりに、休憩の時間帯を調整する
  • シフトを相談する——夜勤がある職場では、希望者をラマダン中に夜勤へ回すなどの調整が喜ばれることもある
  • 周りの社員に知らせる——目の前で食べることを遠慮する必要はないが、「今は断食中」ということを周りが知っていれば、無理な誘いや誤解を防げる

レバラン(断食明けの大祭)と一時帰国

ラマダンが終わると、「レバラン」(イドゥル・フィトリ)と呼ばれる断食明けの大祭があります。インドネシアでは1年で最も大切な行事で、家族のもとに帰って一緒に祝うのが習わしです。インドネシア政府の決定では、2027年のレバランの祝日は3月10日と11日とされています。

この時期に一時帰国を希望する人は少なくありません。特定技能の制度では、本人が一時帰国を希望したときは有給休暇を取れるよう配慮することが求められています。繁忙期と重なる場合も、早めに希望を聞き、交代で休めるよう計画しておくことが、長く働いてもらうための大切なポイントです。

企業の実践例

総務省中部管区行政評価局が、ムスリムを受け入れる企業や地域の取り組みを調査した報告書(2017年)では、次のような企業の実践例が紹介されています。

取り組み内容
食事の提供社員食堂でハラール食を提供し、寮の近くにハラール認証の飲食店を開いた例
食材の表示社員食堂のメニューに、豚肉や牛肉を使っているかを英語とイラストで表示した例(ムスリムの実習生に好評)
礼拝室の設置既存の施設を礼拝室に改修した例、礼拝前に足を洗える設備を設けた例
金曜礼拝への配慮毎週金曜日、就業時間中に近くの礼拝所での集団礼拝に参加することを認めた例
ラマダン中のシフト断食期間中、希望者を2週間連続で夜勤にした例

大きな投資をしている例もありますが、メニューの表示や、空き部屋を礼拝に使えるようにするといった、すぐにできる取り組みも多くあります。自社の規模に合った方法から始めましょう。

定着のために、受け入れ前に決めておきたいこと

宗教への配慮に加えて、定着のためには次のような準備も欠かせません。

1. 給料と昇給の見通しを伝える

調査で最も多かった困りごとは「給料が低い」でした。日本人と同等以上の給料は当然として、「どうすれば給料が上がるのか」を入社時に具体的に伝えることが大切です。資格を取ったら手当がつく、1年ごとに評価して昇給する、といった道筋が見えると、目標を持って働けます。

2. 仕事の教え方を工夫する

日本語の試験に合格していても、早口の指示や専門用語、方言は伝わりにくいものです。写真や図を使ったマニュアル、短い文で話す「やさしい日本語」を取り入れると、仕事を覚えるスピードが上がり、ミスや事故も防げます。

3. 相談できる人を決める

仕事の悩みだけでなく、病院のかかり方や役所の手続きなど、生活の困りごとを相談できる担当者を決めておきましょう。同じインドネシア出身の先輩社員がいれば、その人に相談役をお願いするのも効果的です。

4. 仕事以外の孤独を減らす

調査では、一人暮らしの生活で孤独を感じる人が最も多いという結果が出ています。地域のインドネシア人コミュニティやモスクの情報を伝える、会社の行事に誘う、日本語教室を紹介するなど、仕事以外のつながりをつくる手助けも、定着につながります。

5. 日本人社員にも説明する

受け入れる側の日本人社員が、インドネシアの文化や宗教を知らないと、誤解や不満が生まれやすくなります。受け入れ前に社内で説明の場を設け、礼拝や食事のルールを「なぜそうするのか」とあわせて共有しておきましょう。新しく来た人を迎える準備は、日本人の新入社員の場合と同じです。「新入社員のオンボーディング設計」も参考になります。

定着のための職場チェックリスト

インドネシア人材の定着チェック

  • 本人に、宗教上大切にしていることや食べられないものを聞いている
  • 礼拝できる場所と、礼拝のタイミングのルールが決まっている
  • 社員食堂やお弁当で、豚肉やアルコールの有無が分かるようになっている
  • ラマダン中の体調管理と、危険な作業の割り振りを考えている
  • レバランの時期の一時帰国の希望を、早めに聞く仕組みがある
  • 昇給の条件や手当の仕組みを、入社時に具体的に伝えている
  • 写真や図、やさしい日本語を使った業務マニュアルがある
  • 仕事と生活の両方を相談できる担当者が決まっている
  • 地域のモスクやハラール食材店、インドネシア人コミュニティの情報を伝えている
  • 日本人社員に、インドネシアの文化や宗教について説明する場を設けている

チェックが入らなかった項目から、一つずつ取り組んでみてください。

よくある質問

礼拝の時間は、仕事中に毎回抜けることになりますか?

1日5回の礼拝のうち、勤務時間と重なるのは昼と午後の1〜2回程度であることが多く、1回あたりの時間も10分前後です。礼拝の時間にはある程度の幅があるため、昼休みや休憩時間に合わせて行う人も多くいます。どのタイミングで礼拝するかは、本人と相談してルールを決めておくと、周りの社員も含めて安心して働けます。

社員食堂やお弁当は、どこまで対応すればよいですか?

最低限、豚肉やアルコールが使われているかどうかを分かるようにしておくことが大切です。メニューに表示する、使っている食材を事前に伝える、といった対応だけでも本人の安心感は大きく変わります。どこまで厳格に守るかは個人によって差があるため、本人に確認しながら決めるのがおすすめです。

ラマダン中も、普段どおり働いてもらって大丈夫ですか?

多くの人はラマダン中も普段どおりに働きます。ただし、日中は水も飲まないため、特に暑い時期や体を使う仕事では体調への注意が必要です。重い作業の時間を調整する、休憩をこまめにとる、体調が悪いときは無理をしないよう声をかけるなど、安全面の配慮をしましょう。

飲み会や歓迎会には誘わないほうがいいですか?

誘うこと自体は問題ありません。むしろ、職場の輪に入るきっかけとして喜ばれることも多くあります。お酒を勧めない、ノンアルコールの飲み物や豚肉を使わない料理を用意する、といった配慮をすれば、一緒に楽しめます。昼食会など、お酒を前提としない形の交流も効果的です。

インドネシア人の社員が日本人社員とうまくなじめるか心配です。

受け入れる側の日本人社員が、インドネシアの文化や宗教について事前に知っておくことが一番の対策です。礼拝や食事のことを知らないと、誤解や不満が生まれやすくなります。受け入れ前に社内で説明会を開き、「なぜそうするのか」を共有しておくと、自然に助け合える雰囲気が生まれます。

まとめ

インドネシア人材の多くはイスラム教徒であり、礼拝、食事、ラマダン、レバランといった、日本人にはなじみの薄い習慣を大切にしています。こうした習慣を理解し、職場のルールとして配慮を形にすることが、長く働いてもらうための土台になります。

あわせて、公的な調査が示すとおり、給料と昇給の見通し、職場での人間関係、仕事以外の孤独への目配りも欠かせません。特別なことをする必要はなく、一人ひとりに「何を大切にしているか」を聞き、できることから始めることが一番の近道です。

受け入れの手続きや費用については「特定技能でインドネシア人を採用するには?」で解説しています。

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参考資料

  • 外務省「インドネシア基礎データ」 Web
  • 出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数(令和8年6月末)のポイント」(2026年9月) PDF
  • 出入国在留管理庁「令和7年度 在留外国人に対する基礎調査」(2026年5月) Web
  • 総務省中部管区行政評価局「宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査-ムスリムを中心として-」(2017年12月) PDF
  • インドネシア国家官房「2027年の祝日・共同休暇に関する3大臣共同決定」(2026年9月) Web
  • 出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」(2026年7月改訂) PDF

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Profile

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金井 泰幸

offtie 代表。GMOインターネットグループでのデジタルマーケティング支援を経て独立。地域に根差した企業の「伴走役」として、ホームページやSNS・Web広告による発信、AIを使った業務効率化、人手の足りない業務の代行まで、会社の困りごとをまとめて支援している。