経理アウトソーシングでどこまで任せられるのか。先に結論を言うと、記帳、請求書の発行、支払データの作成、経費精算のチェック、給与計算、決算書の作成といった「手を動かす作業」は、ほぼすべて外部に任せられます。一方で、税務申告書の作成や税務代理は税理士、社会保険・労働保険の手続き代行は社会保険労務士にしか依頼できない業務です。そして、支払の承認や資金繰りの判断など「お金を動かす決定」は、どこに委託しても社内に残ります。

「経理は一人の担当者に任せきり」——中小企業では珍しくない状況ですが、これは経営上のリスクでもあります。その担当者が体調を崩したり退職したりすると、業務が一気に滞ってしまうためです。

この記事では、経理業務を一つずつ「任せられる/条件付き/資格者でないとできない/社内に残す」に分けた一覧表を示したうえで、法律で決まっている範囲、社内で抱えた場合とのコスト比較、実際に依頼を始めるまでの手順、委託先選びの判断基準までを順番に解説します。

この記事でわかること
  • 経理で「任せられる業務」と「社内に残す業務」の線引き(業務別の一覧表)
  • 税理士・社労士でないと受けられない業務の範囲
  • 社内で抱える場合と、外注する場合のコスト比較
  • 会社の状況別・どこまで任せるかの目安
  • 依頼を始めるまでの4ステップと、委託先の選び方

経理アウトソーシングとは

経理アウトソーシングとは、記帳や請求書の発行、給与計算といった経理業務の一部または全部を、外部の事業者に継続的に委託することです。「経理代行」「記帳代行」と呼ばれることもあります。

委託先には、経理代行を専門とする会社、税理士事務所、社会保険労務士事務所などがあり、それぞれ引き受けられる業務の範囲が違います。とくに税金の申告と社会保険の手続きは、法律で資格者の業務と定められているため、「どこに頼むか」によって「どこまで任せられるか」が変わる点を押さえておく必要があります。

なお、派遣社員を受け入れて社内で作業してもらう形とは異なり、アウトソーシングでは作業の進め方や品質の管理を委託先が担います。社内の役割は、資料を渡すことと、結果を確認して判断することに絞られます。

経理担当が一人しかいないリスク

経理は専門性が求められる一方で、多くの中小企業では一人の担当者が全ての業務を抱えがちです。属人化が進むと、その人にしか分からない処理が積み重なり、引き継ぎや急な休職への対応が難しくなります。アウトソーシングは、コスト削減だけでなく、この「一人に依存するリスク」を減らす手段としても有効です。

実際にリスクが表面化するのは、次のような場面です。

  • 担当者が急に休んだとき——支払いや給与の締め日が動かせないため、経営者自身が不慣れな処理を引き受けることになる
  • 退職の申し出があったとき——引き継ぎ資料がなく、後任の採用と教育に数ヶ月かかる
  • チェックが働かないとき——一人で入力から確認まで行うため、ミスや不正に気づく仕組みが社内に存在しない

いずれも「起きてから対処する」のが難しい種類の問題です。だからこそ、平常時のうちに業務を棚卸しし、外に出せる部分を切り分けておく意味があります。

【一覧表】経理アウトソーシングはどこまで任せられるか

経理業務を一つずつ見ていくと、外部に任せられる範囲は次のように整理できます。区分は4つです。

  • 任せられる——作業の大部分をそのまま委託できる
  • 条件付き——作業は委託できるが、承認や情報提供など社内に残る部分がある
  • 資格者のみ——法律上、税理士や社会保険労務士などの資格者に依頼する必要がある
  • 社内に残す——経営判断そのもので、外部には任せられない
業務区分委託できること/社内に残ること
日々の記帳・仕訳入力任せられる領収書・通帳データからの入力、月次試算表の作成まで委託できる。証憑を期限までに集めて渡すのは社内の役割
請求書の発行・入金確認任せられる請求書の作成・送付、入金の消込、未入金の一覧化まで委託できる。請求金額や取引条件の確定は社内
支払業務条件付き支払予定表や振込データの作成は委託できる。支払の承認と振込の実行(ネットバンキングの承認操作)は社内に残す
経費精算条件付き領収書と申請内容の突き合わせ、仕訳は委託できる。経費として認めるかどうかの承認は社内
給与計算条件付き勤怠データをもとにした計算、明細の作成は委託できる。勤怠の締めと人事情報の提供は社内。賃金台帳などの法定帳簿の作成は社労士の業務範囲に含まれるため、依頼先を確認する
年末調整条件付き従業員からの申告書の回収・確認、計算作業の補助を引き受ける委託先は多い。個別の税金の相談などは税理士の領域に入るため、どこまで対応するかを事前に確認する
決算条件付き決算整理仕訳や決算書の作成は委託できる。在庫の確定や役員報酬など、決算の方針は経営者が判断する
税務申告(法人税・消費税など)資格者のみ申告書の作成、税務署への申告の代理、税務相談は税理士(税理士法人)の業務
社会保険・労働保険の手続き資格者のみ入退社の届出、算定基礎届、労働保険の年度更新などの書類作成・提出代行は、報酬を得て行う場合は社会保険労務士(社労士法人)の業務
資金繰り・支払条件の判断社内に残す借入や支払時期の判断、取引先との条件交渉は経営判断そのもの。委託先からは判断材料となる資料を受け取る

※区分は一般的な目安です。実際の対応範囲は委託先ごとに異なるため、契約前に業務ごとに確認してください。

一覧表から言えること

経理アウトソーシングで任せられるのは「作業」で、社内に残るのは「承認」と「判断」です。「条件付き」の業務は、作業と承認を分けて考えれば、作業の部分はほぼ外部に出せます。そのうえで、税務申告と社会保険の手続きだけは、依頼先が資格者かどうかを必ず確認する必要があります。

資格者でないとできない業務:税理士と社労士の範囲

「どこまで任せられるか」を考えるうえで、法律で範囲が決まっている業務が2つあります。税金に関する業務と、社会保険・労働保険の手続きです。

税務申告・税務相談は税理士の業務

税理士法第2条は、税理士の業務として「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の3つを定めています。具体的には、納税者に代わって税務署へ申告すること、税務署に提出する申告書などを作成すること、税額の計算について個別に相談に応じることです。そして同法第52条は、税理士または税理士法人でない者がこれらの業務を行うことを禁じています。

国税庁は、この3つの業務はたとえ無償であっても、税理士等でない者は行ってはならないと説明しています。「記帳のついでに申告書もサービスで作っておきます」という依頼先があれば、その申告書を誰が作るのかを確認したほうがよいということです。

一方で、記帳代行は税理士の独占業務ではありません。税理士法第2条第2項は、財務書類の作成や会計帳簿の記帳の代行を、税理士業務に「付随して」行える事務として位置づけています。記帳や決算書の作成までは経理代行会社に任せ、申告だけを税理士に依頼する、という分け方ができるのはこのためです。

社会保険・労働保険の手続き代行は社労士の業務

社会保険労務士法第2条は、労働・社会保険に関する法令にもとづく届出書などの作成、その提出の代行、行政機関に対する手続きの代理、そして賃金台帳などの法定帳簿の作成を、社会保険労務士の業務として定めています。同法第27条により、社労士または社労士法人でない者が、報酬を得てこれらを業として行うことはできません。

経理の現場で関係が深いのは、従業員の入社・退職時の資格取得・喪失の届出、毎年の算定基礎届、労働保険の年度更新などです。給与計算と一緒に「手続きもまとめて」と考えがちですが、手続きの部分は依頼先に社労士がいるかどうかで引き受けられるかが変わります。

自社で行う分には資格は不要

税理士法・社会保険労務士法が制限しているのは、他人から頼まれて業務を行うことです。自社の社員が自社の申告書や届出書を作成・提出することは、もちろん問題ありません。社内で続けるか、資格者に依頼するかを選べる、ということです。

外部に任せやすい経理業務

業務任せやすい理由
日々の記帳・仕訳入力手順が明確で、ルール化しやすい
請求書の発行・入金確認定型的な作業で、標準化しやすい
給与計算ルールに基づく計算が中心で、外部の専門知識も活きる
月次試算表の作成フォーマットが決まっていれば委託しやすい

社内に残すべき経理業務

  • 資金繰りの最終判断——経営状況を踏まえた意思決定は社内でしか行えない
  • 取引先との個別交渉——支払い条件などの交渉は、関係性を踏まえた判断が必要
  • 経営数値の解釈・活用——数字をどう経営判断に使うかは、経営者自身が担うべき領域
  • 支払・経費の承認——振込や経費精算の最終承認を外部に渡すと、不正やミスを止める仕組みがなくなる
  • 証憑の回収——領収書や請求書を社内で集めて期限までに渡す役割は、外注しても社内に残る
「手を動かす作業」は任せて、「数字をどう読み、どう判断するか」は手放さない。この線引きが、経理アウトソーシングを機能させる鍵です。

会社の状況別・どこまで任せるかの目安

同じ経理業務でも、社内の体制によって外部に出すべき範囲は変わります。よくある3つの状況ごとに、目安をまとめました。

社内の状況外部に任せる範囲の目安社内に残す役割
経理の専任者がいない(経営者や家族が兼務)記帳・請求書発行・給与計算をまとめて委託し、申告は税理士、手続きは社労士に依頼する証憑の回収、支払の承認、月次報告の確認
経理担当が1人いる給与計算や記帳など手間のかかる定型業務を切り出し、担当者は確認と社内調整に回る担当者による確認・承認、急な休みに備えた手順書の共有
経理担当が複数いるが繁忙期に回らない決算期や年末調整の時期など、業務量が増える部分だけを委託する日常の処理と、委託した作業の品質チェック

経理担当が1人の会社では、外部に出すことで担当者が「一人で全部抱える」状態から抜け出し、確認役に回れるのが大きな変化です。どの状況でも、承認と判断は社内に残るという点は変わりません。

社内で抱える場合と外注する場合のコスト比較

経理アウトソーシングを検討するとき、「外注は高い」という印象で判断されることがあります。しかし比べるべきは委託料だけではなく、社内で担う場合にかかる人件費・採用費・教育コストを含めた総額です。

比較項目社内で担当者を置く場合外部に委託する場合
毎月の固定費給与・社会保険料が固定でかかる委託する業務量に応じて変動させやすい
採用・教育募集費用と、戦力化までの数ヶ月が必要委託先側に知識があるため立ち上がりが早い
繁忙期の対応残業で吸収するしかない契約範囲を広げて対応できる場合がある
欠員リスク休職・退職で業務が止まる委託先内で担当を交代できる
ノウハウの蓄積社内に残るが、属人化しやすい手順が文書化されるが、社内理解は薄くなりやすい

ここで分かるのは、外注が常に安いわけでも高いわけでもないということです。業務量が少なく波がある会社ほど外注の相性がよく、逆に処理件数が多く毎日発生し続ける会社では、社内担当と外注の併用が現実的な形になります。

依頼を始めるまでの4ステップ

いきなり「経理を丸ごとお願いしたい」と相談しても、見積りも業務設計も定まりません。次の順番で進めると、無理なく移行できます。

01

業務の棚卸し

月内のどのタイミングで、誰が、どんな処理をしているかを書き出す。件数と所要時間まで出せると、見積り精度が上がる

02

任せる範囲の決定

記帳・請求・給与など、切り出しやすい単位で範囲を決める。最初は一領域だけに絞るのが安全

03

データの受け渡し方を決める

会計ソフトの共有アカウント、証憑のアップロード先、締め日と提出期限を先に取り決めておく

04

試行と定着

1〜2ヶ月は並走期間として、差し戻しや確認の往復が多い箇所を手順書に落とし込む

特に見落としがちなのが03です。誰がいつまでに何を渡すかが曖昧なままだと、委託先の作業が止まり、「外注したのに早くならない」という不満につながります。

委託先を選ぶときの視点

  • 対応範囲が明確か——記帳だけか、給与計算まで含むかなど、業務範囲をはっきり確認する
  • 使っている会計ソフトとの相性——自社が使っているシステムに対応できるか
  • セキュリティ・情報管理の体制——数値情報を扱う以上、管理体制が明文化されているかを確認する
  • 繁忙期の対応力——決算期など、業務量が増える時期に柔軟に対応できるか
  • 資格が必要な業務の担当者——税務申告や社会保険の手続きを誰が担うのか。税理士・社労士が対応するのか、自社で別途依頼する必要があるのかを確認する

つまずきやすいポイント

  • 丸投げしてしまう——数字の意味を社内で誰も把握していない状態になると、資金繰りの判断が遅れる。月次で報告を受け、内容を確認する担当を社内に置く
  • 証憑の提出が遅れる——領収書や請求書の回収が滞ると、委託先は作業できない。回収の締め日を社内ルールとして決めておく
  • 範囲を広げすぎる——最初から全業務を任せると、手順が固まらないまま混乱しやすい。一領域で運用が安定してから広げる
  • 価格だけで選ぶ——安価な委託先は対応範囲が狭いことがあり、結果として社内作業が残る。見積りの前提となる業務範囲を必ず確認する

逆に言えば、この4点を押さえておけば、経理アウトソーシングは「担当者が一人しかいない」状態から抜け出す現実的な手段になります。

任せる範囲を決める前のチェックリスト

委託先に相談する前に、次の項目を社内で確認しておくと、任せる範囲と見積りの話が早く進みます。

経理アウトソーシング 準備チェック

  • 毎月の経理業務を、業務名・担当者・所要時間で書き出している
  • 仕訳・請求書・給与計算の月間件数(人数)をおおよそ把握している
  • 使っている会計ソフト・給与ソフトと、そのデータの保存場所が分かる
  • 領収書・請求書を誰がいつまでに集めるか決まっている
  • 支払と経費精算の承認者が決まっている
  • 税務申告を依頼している税理士がいるか、今後どうするか決めている
  • 社会保険の手続きを誰が行っているか(社内か社労士か)把握している
  • 月次の報告を受けて内容を確認する社内の担当者を決めている

未確認の項目が多い場合は、まず業務の棚卸しから始めるのが近道です。棚卸しができると、「どこまで任せるか」の判断も、委託先の見積りも具体的になります。

よくある質問

経理アウトソーシングで、経理を丸ごと任せることはできますか?

記帳、請求書の発行、支払データの作成、経費精算のチェック、給与計算、決算書の作成といった作業の大部分は外部に任せられます。ただし、税務申告書の作成や税務代理は税理士、社会保険・労働保険の手続き代行は社会保険労務士の業務です。また、支払の承認や資金繰りの判断は社内に残す必要があるため、「作業は丸ごと、判断は社内」と考えるのが現実的です。

記帳代行は税理士に頼まないといけませんか?

記帳代行そのものは税理士の独占業務ではありません。税理士法では、会計帳簿の記帳の代行は税理士業務に「付随して」行える事務として位置づけられています。一方で、記帳したデータをもとに税務申告書を作成したり、個別の税額計算について相談に応じたりするのは税理士業務で、税理士でない者は無償でも行えません。

給与計算を外部に任せる場合、社会保険の手続きも一緒に頼めますか?

依頼先によります。社会保険・労働保険の届出書の作成や提出の代行を報酬を得て行えるのは、社会保険労務士(社労士法人)です。給与計算と手続きを一括で任せたい場合は、依頼先に社労士が所属しているか、手続きは誰が担当するのかを契約前に確認してください。

経理アウトソーシングを始めても、社内に担当者は必要ですか?

必要です。ただし、専任の経理担当者である必要はありません。領収書や請求書を期限までに集めて渡す役割と、月次の報告を受けて内容を確認する役割の2つを社内の誰が担うかを決めておけば、運用は回ります。この2つが決まっていないと、外注しても処理が遅れたり、数字を誰も把握していない状態になったりします。

まず何から外部に任せるのがよいですか?

手順が決まっていて毎月発生する記帳や請求書の発行から始めるのが一般的です。一つの業務で受け渡しのルールが固まってから、支払データの作成や経費精算、給与計算へと範囲を広げると、混乱が少なく済みます。

まとめ

経理アウトソーシングでは、記帳、請求書の発行、支払データの作成、経費精算のチェック、給与計算、決算書の作成といった作業の大部分を外部に任せられます。ただし、税務申告は税理士、社会保険・労働保険の手続き代行は社労士の業務であり、支払の承認や資金繰りの判断は社内に残ります。

経理業務のアウトソーシングは、単なる効率化だけでなく、「一人に依存するリスク」を減らす経営判断でもあります。手順化しやすい記帳や給与計算から任せ、経営判断に関わる部分は手元に残す——この線引きを意識することが、無理のない導入の第一歩です。インボイス制度をきっかけとした請求書業務の見直しについては、請求書電子化・インボイス対応、中小企業がまず始めるべきことで解説しています。

「自社の場合はどこまで任せられるか」を整理するところからご相談いただけます。お見積りは無料です。

参考資料

  • e-Gov法令検索「税理士法」(第2条 税理士の業務、第52条 税理士業務の制限) Web
  • 国税庁「国税庁レポート2026」Ⅶ 税理士業務の適正な運営の確保 PDF
  • e-Gov法令検索「社会保険労務士法」(第2条 社会保険労務士の業務、第27条 業務の制限) Web
  • 全国社会保険労務士会連合会「労働社会保険手続業務」 Web